Visual Studio 2022では、Gitとの統合が大幅に進化し、これまでコマンドラインでしか扱えなかった操作の多くがGUIから実行できるようになりました。この記事では、Visual Studio 2022で利用できるGit機能を「基本操作」から「チーム開発」「高度機能」までカテゴリ別に整理。Gitをより効率的に使いこなしたい開発者向けに、実務で役立つ操作範囲を一覧形式でまとめます。
Visual Studioで使えるGit機能【基本操作編】
日常的な開発で最も頻繁に行うリポジトリ操作やコミット管理は、Visual Studio 2022で非常に直感的に扱えるようになりました。ここでは、コマンド不要で行える基本操作を整理します。
✅ リポジトリのクローン(Clone)/新規作成(Init)
Visual Studioのスタートウィンドウから「リポジトリのクローン」を選択することで、GitHubやAzure DevOpsなどのリモートリポジトリを簡単に取得できます。
また、「新しいリポジトリの作成」を選ぶと、既存のソリューションに対してgit init相当の操作をGUIで実行可能です。
ポイント
- HTTPS/SSHの接続方式をGUIで選択可能
- ローカルパスの指定・自動認識
- GitHubアカウントでの認証連携(OAuth対応)
✅ ステージングとコミット(Add/Commit)
「Gitの変更」ウィンドウから、変更ファイルを個別にステージングできます。
ステージ済み/未ステージの状態が明確に分かれており、CLIでのgit addに相当する操作がドラッグ&ドロップで完結します。
ASP.NET Coreの例:
// Controllers/HomeController.cs
public IActionResult Index()
{
ViewData["Message"] = "Git連携テスト中";
return View();
}
上記のようなコード変更を加えると、変更内容が即座に「Gitの変更」タブに反映されます。
コメントを入力して「すべてコミット」をクリックすれば、git commitが実行されます。
✅ コミット修正(Amend Commit)
誤ったメッセージや漏れた変更を修正したい場合、「前のコミットを修正」オプションを選ぶと、CLIでの--amend操作をGUIで実行できます。
特に小規模修正では重宝しますが、リモートにプッシュ済みのコミットは修正しないよう注意が必要です。
✅ プッシュ/プル/フェッチ
上部ツールバーの「プッシュ」ボタンでリモートへ送信、また「プル」や「フェッチ」で最新の変更を取得できます。
特筆すべきはフェッチ(Fetch)が独立ボタンとして存在する点で、変更内容の確認をしたうえでプルを実行できる点が安全です。
✅ 変更の取り消し(Undo Changes)/差分確認(Compare)
ファイルを右クリックして「変更の取り消し」を選択すると、git restore相当の操作を行います。
また、前回のコミットとの差分も「比較(Compare)」でGUI上から確認可能です。
差分ビューでは、追加・削除が色分け表示され、文脈を保ったままコードレビューできます。
✅ コミット履歴の閲覧
「Gitリポジトリ」ウィンドウまたは「履歴ビュー」から、各コミットを時系列で確認できます。
コミットメッセージ・作者・日時・変更ファイルなどをクリックひとつで参照でき、ログ閲覧専用ツールは不要です。
Visual Studioで使えるGit機能【ブランチ・履歴操作編】
ブランチ管理は、Visual Studio 2022で最も改善された領域のひとつです。ブランチの作成から比較、特定コミットの適用まで、GUIだけで高度な操作が可能です。
✅ ブランチの作成/切り替え/削除
「Gitリポジトリ」ウィンドウの「ブランチ」セクションから、新規ブランチの作成が可能です。
作成時にはベースブランチを選択でき、git checkout -bの代替として動作します。
また、既存ブランチの切り替えや削除もコンテキストメニューから容易に行えます。
✅ ブランチ間の比較(Compare with Current Branch)
現在のブランチと別ブランチを比較する機能も標準で備わっています。
差分はファイル単位で視覚的に確認でき、マージ前の内容チェックにも役立ちます。
✅ Cherry-pick(特定コミットの別ブランチへの適用)
コミット履歴ビューで対象コミットを右クリックし、「Cherry-pick」を選択するだけで別ブランチへ取り込み可能です。
CLIのgit cherry-pickと同様の効果をGUIで再現します。
✅ Revert/Reset
特定のコミットを打ち消す場合は「Revert」、履歴を巻き戻したい場合は「Reset」を使用します。
Visual Studioでは、Revertが安全操作として推奨されており、Resetは明示的な警告ダイアログを伴います。
🔹 Revert:既存履歴を保持したまま「打ち消す」操作
Revertは、過去のコミットを新しいコミットで打ち消す方法です。
たとえば、誤って不要な変更をコミットしてしまった場合に、「その変更を取り消す別のコミット」を自動生成します。
- CLIのコマンド:
git revert <commit-id> - Visual Studioでは、コミット履歴ビューで該当コミットを右クリック → 「このコミットをRevert」
を選択することで同等の操作をGUIから実行できます。
動作の特徴
- 元のコミット履歴は残る(安全)。
- チーム開発環境でも安全に使用可能。
- 取り消した内容は「Revert commit」として新たに履歴に追加される。
ASP.NET Coreの例:
// 誤って削除した行をRevertで復元
public IActionResult Index()
{
ViewData["Message"] = "Revertで元に戻しました";
return View();
}
このように、Revertは「公開済みの履歴を壊さずに修正したいとき」に適しています。
GitHubやAzure DevOpsなど、他メンバーと共有しているブランチ上では原則Revertを選択するのがベストプラクティスです。
🔹 Reset:履歴そのものを巻き戻す操作(破壊的)
Resetは、ブランチを指定した過去のコミット時点に直接戻す操作です。
指定コミット以降の履歴は、場合によっては完全に消えます。
そのため、CLIでは「破壊的操作」として扱われ、Visual Studioでも警告メッセージが表示されます。
- CLIのコマンド:
git reset --hard <commit-id> - Visual Studioでは、コミット履歴ビューで右クリック → 「このコミットにリセット」
を選び、Soft/Mixed/Hardの3種類から選択可能です。
モード 動作内容 Visual Studioでの利用シーン Soft コミットを戻すが、変更はステージに残す 直前コミットを修正したいとき Mixed(デフォルト) ステージ解除し、変更は作業ツリーに残す コミットをやり直したいとき Hard 作業ツリーごと完全に巻き戻す テストブランチをリセットしたいときなど(慎重に使用)
注意点
- 履歴が消える可能性があるため、共有ブランチでは使用厳禁。
- リモートへプッシュ後にResetを実行すると、他メンバーの履歴と不整合を起こす。
- 一時的な実験ブランチやローカル修正をやり直す場合にのみ使用推奨。
🔸 RevertとResetの違いまとめ
| 項目 | Revert | Reset |
|---|---|---|
| 操作内容 | 取り消し用の新しいコミットを追加 | 履歴を直接書き換える |
| 履歴の安全性 | 安全(非破壊) | 破壊的(注意が必要) |
| チーム開発での推奨度 | 高い | 低い(ローカル限定推奨) |
| 主な用途 | 公開ブランチでの修正・打ち消し | ローカルのやり直し・履歴整理 |
| Visual Studioでの利用箇所 | コミット履歴ビュー → 「Revert」 | コミット履歴ビュー → 「このコミットにリセット」 |
💡 実務での使い分けのコツ
- チーム共有ブランチ(例:
mainやdevelop)では、Revert一択。 - 自分専用の開発ブランチで履歴を整えたい場合は、Reset(SoftまたはMixed)を使用。
Reset --hardは「最終手段」。誤って使うと変更が失われるため、必ずバックアップまたはコミット確認を行ってから実行しましょう。
Visual Studio 2022は、これらの操作をすべてコミット履歴ビューの右クリックメニューから実行できます。
CLIを使わずに安全・確実に履歴を扱えるため、Git操作に慣れていない開発者でも安心して利用できる設計となっています。
このように、RevertとResetは目的が似ているようでまったく異なる性質を持っています。
GUIで簡単に操作できるようになった今こそ、「安全に履歴を扱うための理解」が重要です。
✅ Detached HEADのチェックアウト/Commit Graphの可視化
履歴上の任意のコミットをダブルクリックすると、その時点の状態を一時的にチェックアウトできます。
さらに、2024年以降のアップデートで「コミットグラフ」表示が追加され、ブランチの分岐・統合状況を視覚的に把握可能になりました。
Visual Studioで使えるGit機能【チーム開発・連携編】
Visual Studioは、GitHubやAzure DevOpsといったリモートサービスとの連携を前提としたIDEです。
チームでのコードレビューやコンフリクト解消をスムーズに行う機能が揃っています。
✅ リモートリポジトリ接続(GitHub/Azure DevOps)
GitHubアカウントでのサインインを行うと、リモートリポジトリが自動認識されます。
HTTPS/SSH両方に対応し、Visual Studio上から直接リポジトリを操作可能です。
また、Azure DevOpsでは、組織単位でのアクセス制御やワークアイテム連携にも対応しています。
✅ Pull Request作成・レビュー(拡張機能経由)
Visual Studio用の「GitHub Extension for Visual Studio」をインストールすることで、Pull Request(PR)の作成・レビューが可能になります。
PR内の変更差分をエディタで確認しながらコメントできるため、ブラウザに切り替える必要がありません。
✅ コンフリクト解決用マージエディタ(Merge Conflict Editor)
マージ時に発生した競合は、専用のマージエディタで可視的に解決可能です。
3ペイン構成(左:ローカル/右:リモート/下:マージ結果)で、どの変更を採用するかGUI操作で選択できます。
✅ タグ作成・管理/リモートブランチ操作
履歴ビュー上で任意のコミットを右クリックし、「タグの作成」を選択することでバージョンタグを付与可能です。
また、リモートブランチの追跡や削除もメニュー操作で実行できます。
✅ コミット履歴での差分比較・コメント参照/GitHub Codespaces接続
Visual Studio 2022では、履歴ビュー上からGitHub上のPRコメントを直接確認できます。
さらに、GitHub Codespacesとの接続機能も提供されており、クラウド上の開発環境にそのまま接続して作業を継続できます。
Visual Studioで使えるGit機能【設定・拡張編】
Visual StudioはGit設定をGUIから操作できる点も特徴的です。
CLIを使わずにグローバル設定やリポジトリ設定を切り替えられます。
✅ Git設定のGUI編集(Global/Repositoryレベル切替)
ツールメニューの「オプション」→「ソース管理」→「Git Global Settings」から、ユーザー名やメールアドレス、改行コードポリシーなどを設定可能です。
グローバルとリポジトリレベルの設定をGUI上で簡単に切り替えられます。
✅ Force Push(強制プッシュ)の許可設定
Visual Studioでは、デフォルトで--forceプッシュが無効化されていますが、設定で有効化可能です。
誤操作による履歴破壊を防ぐ安全設計となっています。
✅ Git Hooksの制限付き対応/Worktree認識
プリコミットフック(pre-commit)などのGit Hooksも、Visual Studioが一定の範囲で検知します。
ただし、スクリプトの実行まではIDEから直接サポートしていません。
また、Worktreeの存在を認識し、既存のWorktreeを参照することも可能です(作成はCLI限定)。
Visual Studioでは限定対応または非対応のGit機能
すべてのGit操作がGUIで完結するわけではありません。
一部の高度な機能は依然としてコマンドラインが必要です。
- Rebase:GUIでは単一コミットのインタラクティブ操作に制限されます。
- Submodule管理:追加・削除はCLI操作が必要。
- Git LFS:拡張機能経由で部分的にサポートされますが、詳細設定はターミナル経由が推奨。
- CI/CD連携(GitHub Actionsなど):Visual Studioからの直接操作は非対応。
- Worktree作成:CLIのみで可能(GUIは参照のみ)。
まとめ:Visual Studioだけで完結するGitワークフローを構築しよう
Visual Studio 2022は、もはや「IDE+Gitクライアント」として十分な完成度を誇ります。
コミット修正(Amend)、Cherry-pick、ブランチ比較、Pull Request作成といった操作をGUIで実行でき、開発の流れを止めずにバージョン管理を進められます。
一方で、RebaseやSubmoduleなど、履歴操作に関する一部機能はCLIとの併用が必要です。
そのため、「日常作業はVisual Studio」「高度操作はCLI」という棲み分けが、2025年時点で最も現実的なスタイルと言えるでしょう。
Visual Studio 2022のGit統合機能を使いこなすことで、チーム開発の効率と安全性を両立したワークフローを構築できます。


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